遺言執行者である相続人が、自己に対する遺言の執行をしながら、他の相続人に対して自己が負担する代償金の支払いをしない場合には、遺言執行者が任務を怠っているとして、家庭裁判所に解任を求める申立ができます。
遺言執行者である相続人が、公正証書遺言に記載のある代償金を他の相続人に支払ってくれません。
上記の相続人は、他の相続人に遺言書の存在や執行者であることを通知する前に相続を済ませております。
どうすれば良いのでしょうか。
【ニックネーム】
あお
【回答の詳細】
1 問題点の整理
遺言執行者である相続人が、遺産としての価値の大半を占める不動産などの遺贈を受けると、残余の遺産では他の相続人が取得できる財産が少なくなってしまいます。
このため、他の相続人との均衡を図る趣旨で不動産などの遺贈を受けた相続人から他の相続人に対して代償金の支払いをすべきことを遺言に記載することはよくあります。
しかし、遺言執行者である相続人が自分に対する遺言を執行しながら、他の相続人に対して代償金を支払わない場合に、他の相続人としてはどのような対応をすればよいでしょうか。
2 遺言執行者が任務を怠ったときは解任を求めることができます
遺言執行者には、遺言の内容を適正かつ確実に実現するという任務があります。
このため、遺言執行者が任務を怠った場合には、利害関係人はその解任を家庭裁判所に請求することができます。
ここでいう、利害関係人には相続人が含まれます。
したがって、本件のように遺言執行者が他の相続人に対して遺言の有無、内容を通知しないまま遺言執行に着手したことや、公正証書遺言の内容である相続人に対する代償金の支払いを怠っている場合には、相続人である相談者は、家庭裁判所に、解任を求める申立てをすることができます。
3 遺言執行者が解任されたとしても代償金が支払われる訳ではない
ただし、遺言執行者が解任されたとしても、代償金が支払われる訳ではありません。
遺言執行者である相続人があくまでも代償金を支払わない場合には、訴訟を提起する必要があります。
この場合、新たな遺言執行者を選任した上で訴訟を提起する方法と、相続人自らが直接訴訟を提起する方法があります。
前者の場合、遺言執行者は家庭裁判所が選任するため、必ずしも他の相続人が就任できるとは限りません。
弁護士等の専門職が選任された場合には、相応の費用が発生することになります。
4 問題は、遺言執行者が代償金を払えなくなることである
遺言執行者である相続人が取得した遺産が不動産である場合、代償金として支払うことのできるお金を遺言執行者が持っていないという事態が想定されます。
この場合は、遺言執行者である相続人が取得した不動産に対して、強制執行をかけていくことが考えられます。
しかし、問題は、遺言執行者が自分への遺贈を先行させながら、その不動産すら他人に売却するなどして、代償金を支払うことができなくなることです。
本件の遺言執行者の財産状況は分かりませんが、上記のようなおそれがある場合には、あらかじめ遺言執行者である相続人が取得した不動産等に対して仮差押えの手続きをしておく必要があります。
5 法専門家への相談をしたほうがよいでしょう。
相談者としての対応方法についてフローチャートにまとめておきます。
ただし、上述の通り、遺言執行者である相続人の資産状況等によっては、直ちに財産保全の措置を取った方がよいケースもあります。また、遺言執行者の解任・選任には一定の費用と時間がかかるので、これを省略した方が良い場合があります。
どのような方法を取るべきかは、個別具体的な事情により異なりますので、法専門家の助言を受けながら進められると良いでしょう。
(弁護士 岡本英樹)