【質問の要旨】
被相続人:義母(夫の母)
相続人:相談者(義母の養子となっている)、義母の娘
・相談者と義母は3年前に養子縁組を結んでいるが、
義母の娘から縁組のことは「聞いていない」「無効だ」と言われている。
・義母の預金を自宅の改修費に充てたこともおかしいと言われている。
・養子縁組や改修費の支出は法律的にやってはいけないことだったのか?
【ご質問内容】
今年の春に義母が亡くなりました。主人は6年前に亡くなり、知人に介護に関する手続きがスムーズになると聞き、3年前に義母と養子縁組をしました。
義母の四十九日の際、義母の娘から養子縁組は聞いてないと言われ、無効だと言われました。
そして、義母の預金の流れも調べてきて、義母の預金から家の改修費を出すのはおかしいと言われました。
自分としては、養子縁組は相談したのですが、それに対する返事がないまま、手続きを進めたし、遺産目的ではないので縁組を解消し、相続もしないつもりですが、詐欺だとも言われ、縁組したことはダメだったのか不安に思っています。
改修費については、義母と一緒に暮らしていく家なので、出させてもらったのですが、法律的にダメなことだったでしょうか?
ちなみに、義母は養子縁組時や改修費を出してもらった時は認知が進んでいましたが、義母の意思は確認しました。ただ、証拠はありません。
【ニックネーム】
むつ
【回答】
1.結論として、離縁をする必要はありません
義母の認知症の程度がそれほど重度ではなく、縁組の意思や改修費の支出について理解していたのであれば、法的には問題がありません。
そのため、離縁をして縁組を解消しなければならないということもありませんし、相続放棄をする必要もないでしょう。
なお、死亡後に離縁をしたとしても、相続関係がなくなるわけではないため、相続はできますし、あまり意味がないでしょう。
2.養子縁組について
今回のケースでは、相談者は義母の娘から「聞いていない」「無効だ」と言われておりますが、そもそも養子縁組をするのに養親となる義母以外の同意は必要ありません。
また、義母の娘が「無効」と言っておりますが、現時点では訴訟提起されているわけではなく、相談者として何か対応が必要な状況ではありません。
仮に、縁組の無効を確認する訴訟が提起されたとしても、縁組が無効であることを立証する責任があるのは、相手方です。
3.改修費について
改修費についても、本人の意思を確認しているのであれば問題がありません。
もし、意思能力が低下しているような状況であれば、相談者が義母の意思に反して預金を引き出して使い込みをしているのではないかということが問題となりますが、義母と一緒に暮らしていく家の改修であれば、義母本人のための支出なので問題はありません。
【詳細な回答】
1.養子縁組が無効となるかどうかは、認知症の程度や義母の状況による
養子縁組が有効というためには、「縁組の意思」がなければなりません。
認知症の程度が重度であり、養子縁組をすることで相談者と義母が法的に親子関係となることや、その結果、相続関係が発生することなどについて、全く理解できていないという場合は養子縁組が無効となります。
ただし、養子縁組は判決で無効とされた場合などに無効となるため、訴訟提起されていない現段階では効力に問題はありません。
また、訴訟提起されたとしても、縁組が無効であることについて、証拠を出して立証しなければならないのは相手方です。
実際の裁判では、縁組の意思の有無は、医学的診断や日常の態様によって判断されます。
医学的診断では、「長谷川式認知スケール」という認知症のテストが使われることが多いです。
(30点満点中20点以下で認知症の疑い、10点前後でやや高度の可能性、5点前後で高度の認知症の可能性が高いという判断になります)
ただし、上記のような医学的診断のみでただちに無効と判断されることは少なく、日常生活における会話の成立、縁組における自筆の様子などの日常の態様が考慮されること多いでしょう。
もし、実際に訴訟提起される可能性があるのであれば、相談者としては、診断書やカルテ、長谷川式認知スケールの結果の取寄せなどを行い、縁組の当時、義母の認知症の程度が重度ではなく、日常の会話や生活態様などから養子縁組の意味を理解できていたということを相手に主張するとよいでしょう。
なお、今回のケースは介護手続をスムーズにする目的で養子縁組を行っていますが、そのような目的で縁組を行ったとしても、縁組の意思が全くなかったことにはならないため、あまり問題とならないでしょう。
2.改修費について
自宅の改修費については、義母が同意していたといえるかどうかが問題となります。
その当時、義母自身が財産管理をしており、相談者が通帳を託されて出金したのであれば、預金を引き出すことができたという状況自体が同意のあった証拠の一つといえます。
一方、義母が自分で財産管理をできない状況が以前からあり、相談者自身従来から通帳を託されて財産管理を任されていたのであれば、自宅の改修費については、義母自身のための支出でもあるため、委託の範囲内だったと考えることができます。
現段階では、訴訟提起をされているわけではなく、仮に相手が「勝手に引き出した」として、金銭を請求してきたとしても対応する必要はありません。
ただし、万が一訴訟提起して争ってくるようであれば、相談者としては、前述のように医療記録などから意思能力に問題がないということを主張し、預金の引き出しについても義母本人から委託をされていたということや、義母自身も住み続ける家の改修費なので、本人のために支出をしているということを相手に主張をするとよいでしょう。
3.まとめ
結論として、義母の認知症の程度がそれほど重度ではなく、縁組の意思や改修費の支出について理解していたのであれば、法的には問題がありません。
そのため、離縁をして縁組を解消しなければならないということもありませんし、相続放棄をする必要もないでしょう。
なお、死亡後に離縁をしたとしても、相続関係がなくなるわけではないため、相続はできますし、あまり意味がないでしょう。
(弁護士 山本こずえ)
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