【質問の要旨】
被相続人:弟
相談者:被相続人の兄か姉
相続人:相談者、妹A、妹B、亡き兄の子C、D、E
相続財産:損害保険の入院給付金500万円超
・相談者が面倒を見ていた弟の入院給付金を請求していたが、
支給決定前に弟が亡くなった。
・保険会社に提出する書類に、相続人の一部(C、D、E)が協力しない。
・書類提出できる相続人(相談者、A、B)に、各6分の1ずつ支払うと
言われたが、法定相続分の支払いがないとおかしいのではないか?
また、全額を代表受取人として、相談者がもらうことはできないのか?
【回答】
1 現在の権利関係
被相続人である亡弟が生前に損害保険会社に対して有していた入院給付金を請求する権利は被相続人の遺産です。
ただ、金銭を請求する債権であるため、法律上は遺産分割協議を待たずに、相続開始と同時に、各相続人に法定相続分に応じて分割されます。
分かりやすく例えで説明しますと、遺産に200万円の貸金があり、相続人が長男と次男の2人であれば、被相続人の死亡と同時に、長男も弟も、同時に100万円の貸金債権を有することになり、債務者に100万円を請求できるようになります。
2 法定相続分の確認
被相続人の兄弟である相談者、妹A、妹Bの法定相続分は、それぞれ4分の1です。
したがって、相談者は、損害保険会社に対して、入院給付金の4分の1を請求することができます。
なお、保険会社は相談者らに6分の1ずつの支払になると言っているようですが、誤解ではないかと思われます。
本件では、兄が被相続人より先に亡くなっていますので、兄の子であるC、D、Eの3人が代襲相続し、その代襲相続分は、それぞれ12分の1になります。
保険会社はこの点を、相談者、妹A、妹B及びC、D、Eの計6人の相続人がいることから、それぞれ6分の1と誤解しているのでしょう。
3 戸籍謄本の取得について
保険会社としては、誰が相続人なのかを確認するために、関係者全員の戸籍謄本を確認する必要があります。
そのため、戸籍謄本の提出を求められるのは仕方がないでしょう。
自己の権利を行使するために必要がある場合、第三者が他者の戸籍謄本を請求できますが、相続人であるあなたとしては相続関係の確認のために必要な戸籍の取寄せができます。
この際、取寄対象の相続人等の同意は不要です。
4 すぐに相続分に応じた金銭はもらえないのか
相続分が4分の1であることは間違いありません。
ただ、それならば保険会社が相談者に4分の1の支払いをするかと言えば、問題はそれほど簡単ではありません。
今回、問題となっているような金銭債権の法律上の扱いは前記のとおり、相続時に分割されることに間違いはありません。
しかし、金融機関としては、もし、将来、遺言書が出てきたような場合や他の相続人から異議が出てきて、各人に4分の1を渡すと払いすぎになるリスクを回避したいと考えます。
そのため、保険会社は二重払いのリスクを避けるために、全員の同意か、裁判所の判決を要求する場合が多いです。
具体的に言えば、
①受取のための代表人制度をもうけ、全相続人の同意を必要としたり、
②遺産全体の分割協議書を求めたりします。
これらがない場合には、請求する相続人に訴訟を提起することを求め、その訴訟の過程で他の相続人の同意を求める手配(訴訟告知をする)をし、二重払いの可能性を排除した上で、相続分相当の支払いに応じているのが現状です。
5 時効直前になれば相談者がもらえるわけではない
相談者は、C、D、Eの債権が消滅時効にかかる直前になれば、C、D、Eの分の債権を相談者がもらってしかるべきと考えているのかもしれません。
しかし、C、D、Eの債権が時効で消滅すれば、その分、銀行の支払義務がなくなるだけであり、相談者の取得分が増えるわけではありません。
6 このケースは弁護士に依頼するのがいいでしょう。
今回のケースは法律的には簡単に言い切ることができます。
しかし、金融機関は余分な支払いを回避するために必死に抵抗をします。
もし、法定相続分だけの支払いを求めるというのであれば、相続に強い弁護士に相談され、必要に応じてしかるべき法的手続きをとられるといいでしょう。
なお、他に遺産があるのなら、全体としての遺産分割協議を視野に入れる必要もありますので、この点も弁護士に相談されるといいでしょう。