【質問の要旨】
被相続人:父(遺言はなし)
相続人:母、子供3人(A、B、C)
遺産:金融資産 合計約2000万円、不動産 価格5000万円
・預金の大半が引き出され、使途不明金請求を検討している。
・取引履歴には6000万円の引き出し記録がある。
・引出した日から推測して、おそらくBが預金を引き出したと考えられる。
・被相続人が預金の引き出しを指示したり、自分自身で行うことはできない状況にあった。
①Bへの生前贈与、あるいはBによる不当利得を主張することが可能か。
②母は専業主婦であり預金や不動産の共有持分を遺産分割の対象として主張することが可能か。
③Cへの銀行振込みにも不明点がある。これも特別受益として主張できるか。
【ご質問内容】
実父死去。相続人は母・子供3人(A、B、C)の4人。遺言はありません。
使途不明金(生前の引き出し)、特別受益、分割対象となる遺産範囲に関して質問があります。
残高を調べたところ、預金の大半が引き出され使途不明金返還請求を考えております。
引き出しは主にATMからと思われ、毎週水曜日に行われており、これは遠方に住むBが父母を見舞いに来ていた曜日と一致しています。
遺産は、
・金融資産:合計約2000万円
・不動産:価格5000万円
銀行取引履歴には、累計6000万円の引き出し記録があります。
診療記録には、重度の認知症と身体症状から引き出しを被相続人本人が指示、あるいは自身で行える状態ではなかったことが記録されています。
1)Bへの生前贈与、あるいはBによる不当利得を主張することが可能でしょうか?
2)母は専業主婦であり預金や不動産の共有持分を遺産分割の対象として主張することが可能でしょうか?
3)Cへの銀行振込みにも不明点ありこれも特別受益として主張できるでしょうか?
【ニックネーム】
HS
【回答】
1 弁護士に依頼された方がよい
遺産の範囲や使途不明金の問題、特別受益の問題等、争点が多岐にわたっており、その争い方も専門的な内容になりますので、遺産分割調停の対応は、弁護士にご依頼された方がよいでしょう。
以下、簡単にコメントします。
2 被相続人の預金の引出しについて
被相続人の預金を管理していた相続人Bが、権限を越えて勝手に出金して使い込んだのであれば、不当利得になります。
相続人Bが被相続人から生前贈与を受けたのであれば、特別受益になります。
相続人Bが出金したお金を被相続人のために使ったのであれば、不当利得にも特別受益にもなりません。
(重度の)認知症であっても、全ての法律行為が無効とは限らない点には注意が必要です。
なお、被相続人が有していた預貯金債権以外の金銭債権は、原則、遺産分割調停の対象にはなりませんが、他の相続人全員が同意すれば、対象にすることができます。別途訴訟を提起するのは、手間も費用もかかるので、調停の中で扱えないか、相手方に打診するとよいでしょう。
3 母名義の金融資産及び不動産持分の扱い
母名義の預貯金や不動産持分は、特段の事情がない限り、被相続人の遺産ではなく、母のものと判断されるでしょう。
もっとも、被相続人から母への生前贈与であるとして特別受益になる可能性があります。
4 Cへの銀行振り込み
被相続人から相続人Cへの銀行振り込みの証拠があれば、反証がない限り、基本的には生前贈与であるとして特別受益と認められるでしょう。
5 遺産分割調停以外の訴訟の利用法
母名義の金融資産や不動産持分が被相続人の遺産であることを前提に遺産分割調停を進めたい場合は、遺産分割の前に、母名義の金融資産や不動産持分が被相続人の遺産であることの確認訴訟を提起する必要があります。
また、不当利得返還請求権を遺産分割調停の中で取り扱うことに同意しない相続人が一人でもいる場合、相談者は、不当利得返還請求権×法定相続分を相続したとして、不当利得返還請求訴訟を提起することができます。
(弁護士 武田和也)
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