【質問の要旨】
・母が亡くなった
・母の遺産は貯金1000万円、株式が500万円ほど
・相続人は父と相談者の二人
・父が遺産を受け取ると3600万円の控除を超える
・父の同意のもと、遺産放棄をしてもらったらよいと考えるが、間違っているか
【回答の要旨】
・相続放棄には「法律上」と「事実上」の2種類があり、それぞれメリット・デメリットがあるので、比較の上、検討するとよい
・父親の財産が3600万円を超えたとしても、例外的に、相続税が課税されない場合もあるので、確認をするとよい
先日、母がなくなりました。
配偶者である父は存命です。二人の子供は私のみです。母の遺産は貯金1000万程、株式が500万程でした。
父が母の遺産を受けとると父の遺産は3600万控除を超える遺産になります。
その場合、父の同意で母の遺産放棄をしてもらったら良いのでは?と思っています。この考えるかたは間違っていますか?教えてください。
【ニックネーム】
なゆ
【回答】
1 順次相続を見越した相続税対策について
ご両親が高齢になり、順次相続が見込まれる場合、将来の相続税がどうなるのかご心配になる方もいらっしゃると思います。
相談者も、先に母が亡くなり、次に父が亡くなった場合に、多額の相続税が発生しないか、ご懸念されているようです。
このような悩みをお抱えの方も少なくないと思いますので、はじめに相続税の申告が必要となる場合について説明したうえで、本件における相続税対策について回答したいと思います。
2 相続税の申告が必要となる場合
(1)原則
相続税の申告が必要になる場合は、以下の式によって定まります。
「取得した財産の合計額」-「債務と葬儀費用」 > 「遺産にかかる基礎控除額」
「遺産にかかる基礎控除額」は、以下の計算式によります。
「遺産にかかる基礎控除額」=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
本件では、父親が亡くなった場合の子は相談者のみですので、基礎控除額が3600万円となります。
したがって、母親の相続により、父親の財産が3600万円を超える場合には、原則として、父親の相続において相続税が課税されることになります。
(2)例外
例外として、相談者が父親と一緒に住んでいた土地を相続する場合には、その土地の課税評価額が大幅に控除される特例(いわゆる「小規模宅地の特例」)があります。
特例の適用により、父親の財産が3600万円を超えないとされる場合には、相続税が発生しなくなります。
3 本件における相続税対策
本件では、母親の遺産総額が1500万円であるとして、法定相続分によれば、半分の750万円が父親の相続における取り分となります。
父親が750万円を相続すれば、父親の財産が3600万円を超えてしまい、原則として、相続税が発生してしまうようです。
このような場合に、父親の財産が3600万円を超えないように、相談者としては母親の相続において父親が相続放棄することを考えられているようです。
相続放棄という方法は、本件における相続税対策として、あり得る方法だと思います。
ただし相続放棄には、①法律上の相続放棄と、②事実上の相続放棄があります。
①法律上の相続放棄
相続人が、家庭裁判所に対して相続放棄の申述をすることで、行います。
一度した相続放棄は、撤回することが原則としてできません。
また、相続開始を知ったときからから3か月以内に行わなければなりません。
②事実上の相続放棄
相続人間で、特定の相続人の相続分をゼロとする合意を行うことです。
言い換えれば、特定の相続人の相続分をゼロとする遺産分割を行うことを言います。
この方法は、事実上の取り決めですので、後から錯誤などの理由で取り消されるリスクもあります。
なお、期間制限はありません。
4 まとめ
父親の相続において相続税が発生しないようにするために、相続放棄という方法はありうる相続税対策であると思われます。
もっとも、相続放棄には「法律上」と「事実上」の2種類があり、それぞれメリット・デメリットがありますので、比較の上、ご検討されるとよいでしょう。
また、生前贈与まで考えると、相続税対策は多岐にわたりますので、一度、相続税に詳しい税理士などにご相談されてもよいかと思います。
なお、父親の財産が3600万円を超えたとしても、例外的に、相続税が課税されない場合もありますので、ご確認をされるとよいでしょう。
(弁護士 岡本英樹)